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No.127 Spring.2017

人としての魅力がにじみ出るそんな女優になりたい

女優

鶴田 真由さん

10代でデビューし、ドラマやCMで活躍した20代。
華やかに見えるその裏では、生き方に迷い、もがき苦しんだこともあったそうです。
そんな鶴田真由さんを変えたのは、人との出会い、そして旅の存在。
たおやかに語る鶴田さんの“これまで”の道のりと、思い描く“これから”に迫りました。

取材・文/宇治有美子 撮影/尾嶝太
スタイリング/鈴木えりこ(iELU) ヘアメイク/赤松絵利(esper.)


大学在学中に出演したCMで世の話題をさらい、一躍話題の人に。以来、数々のテレビドラマに出演し、 トレンディドラマに欠かせない一人として、女優の道を歩み始めた。だが、子供の頃を振り返ると、意外にも芸能界、ましてや女優に憧れたことは一度もなかったという。

女優になるなんて、夢にも思ってなかったんです。ただ、幼い頃から、本番には強かったみたい。ピアノの発表会など舞台に立つ時、緊張を楽しいと思えるタイプでしたから。芸能界に入ったきっかけは、偶然です。学生時代、従兄に頼まれてエキストラとしてテレビCMに出演したんです。1日限りのアルバイトのつもりでしたが、それをきっかけに今の芸能事務所の社長に出会って、スカウトされたんです。社長が従兄と知り合いだったこともあり、「若いうちに、プロのカメラマンに写真を撮ってもらうのもいい経験だね」といった感じで両親も私も、そのままアルバイトをするような軽い気持ちでしたね。

風向きが変わったのは、大学4年生の時。出演した石油会社のCMが注目を集め、それを機に当時全盛期だったトレンディドラマに出演するようになりました。石田ひかりさん主演のドラマ『悪女(わる)』で比較的大きな役をいただいてからは、1作を撮り終われば、また次の作品にというサイクルに。ほとんど休みがないほど忙しかったけれど、現場は物づくり独特の活気があってエネルギーが満ちている。その刺激的な空気が、すごく好きでした。

焦燥感に悩んだ若き日々を救った初めての一人旅

次第に主要な役に抜擢される機会が増え、「月曜9時のあの枠に」「金曜10時のこの枠に」という夢が叶った20代後半。順調な女優活動とは裏腹に、「芝居とは何か」「女優として何がしたいのか」という疑問が芽生え、焦燥感を覚えるように。だが「もがいていた」その時期、後の活躍の布石となるような旅との出会いに恵まれた。

今から思えば、自分の足できちんと立っていない不安を感じていたのだと思います。はたから見たら、女優として順風満帆に過ごしているように見えたかもしれない。けれど、心の中ではいつも悶々としていました。

この状況をなんとか変えたい。そう思った私はインドやネパールをよく旅していた知り合いの女性に、「次に旅行に行く時に私も連れて行ってほしい」と頼んだんです。すると彼女はこう言ったんです。「今だと思うなら、今行動しなさい。私を待っていてはいけない」と。その言葉に背中を押されるようにして旅立ったのが屋久島。生まれて初めての一人旅です。この旅はとても印象的でした。やりたいと思った〝今〟行動することで、こんなにもいろんなことが起こるんだと、巡り合わせの不思議さを実感しました。

旅先では面白い出会いがたくさんありました。その一人が、たまたま同じ民宿に泊まっていた奄美大島の旅館の女将さん。きっと私が何かに悩んでいると感じ取られたのでしょう。一緒に行動しようと誘ってくれたんです。ラン園を見にいった時、園の方がこんな話をされました。「皆さん本土にランをもって帰られるけど、結局ダメにしてしまうんです」。すると女将さんは、「どんなに美しい花も、咲く場所を間違えると咲かないのね」と意味ありげな表情で私に言うので、思わずその通りだなと、うなずいてしまいました。その後も次々と不思議な体験がありました。女将さんと過ごした日は、三蔵法師と旅しているような気づきのある1日でした(笑)。

屋久島ならではの森歩きも印象深かったです。草の根の姿、切り株から生える芽……、植物が織りなす文様を目にして、生命のリズムに触れたような気がしました。そんなことを感じながら民宿の露天風呂に浸かると、目の前の景色がまるで霧に映写された映像のように見えたのです。その瞬間、「ああ、表現の源は自然の摂理の中にあるんだな」と腑に落ちました。私がずっと答えを求めてきた物づくりの在り方をおぼろげながらつかむことができたんです。それからです、旅に夢中になったのは。

巨匠、蜷川幸雄さんとの出会いが女優の転機に

屋久島への旅から数年後、故・蜷川幸雄さんの演出の作品で初舞台に挑んだ。この挑戦もまた、女優人生に大きな変化をもたらした。それまで、周囲とのコミュニケーションに息苦しさを感じていた鶴田さんは、蜷川さんの下で水を得た魚のように物づくりの世界に没頭する楽しさを味わった。

悩み多かったあの頃、いつも言葉が相手に通じないというジレンマを抱えていました。例えば、台本を読んでいて、なぜこんな心情になるのかどうしても理解できず、それを伝えようとしても理解してもらえない。私もまだ若いからとんがっているし、きちんと相手を説得する言葉ももっていなくて。もどかしい思いをしたり、生意気に映っているんだろうなと落ち込んだり。そんなことの繰り返し。でも、蜷川さんに会った時に、私の疑問や不安を分かってくれる人がいるんだとホッとしたのを覚えています。

蜷川さんの芝居は、妥協が一切ありません。公演を終えた時にはもぬけの殻のような状態で、1つの作品に向き合った達成感をこれでもか、というほど味わいましたね。蜷川さんから学んだのは、手を抜かないこと。常に真剣勝負で生きて、物をつくることは決して楽しいばかりじゃない。苦しいし、しんどい。でも、それ以上の喜びがあるから乗り越えられる。延々と本物を求め続ける姿勢や覚悟を教えてくださいました。

ありのままの思いで旅のナビゲーターとして活躍

旅、そして人との出会いを通じ、女優としてはもちろん一人の女性としても自立心を養った。そんな30代を経て、現在は映画やドラマに出演する一方、旅番組やドキュメンタリー番組でも活躍。これまで訪れた国は40カ国以上。その多くが人里離れた辺境だ。

なんでそこまでして僻地に行くんだろう。そう思われるかもしれませんね。でも、それぐらい文明のないところに行かなければ触れたいものが残っていないんです。私、「自分の中に眠る細胞を起こしたい!」という願望が強くて(笑)。便利な都会暮らしでは、生きるための本能や細胞も眠ったままになってしまう。それらを活性化させるためにも、あえて自然と共にある、本来の人間らしい生活が営まれている場所を望むようになりました。

今はインターネットで世界中の情報が手に入ります。例えば、その映像を観て「自然も動物も、人間もつながっている。共生だよね」と言っても、それは頭で分かった気になっているに過ぎないのではないでしょうか。だから実際に見て触れて、細胞レベルで、自然界にあるものすべてがつながっていることを肌で実感したいんです。それが、旅の原動力になっています。旅先での正直な思いを、視聴者の方々と共有できればと思っています。

いつもその歳なりの一番いい状態を保ちたい

細胞レベルで自然と共生する。原始を体感する旅を続けていると「自分の体が今何を求めているか、敏感になっていく」。そう話す鶴田さんのパワーの源は、野菜や果物など天然の素材からいただくエネルギーだそう。

エイジングに抗おうとは思わないけれど、その時々の肉体の一番いい状態はキープしたいですよね。そのために、食事ってやっぱり大事。毎日1杯の酵母ジュースを飲むようにしています。酵母について学んだことがあるんですが、さまざまなリンゴで実験したら、原種に近いものほど発酵力が強いことが分かったんです。つまり自然に近ければ近いほど、生命力が強いということ。体に良いといわれるオーガニックの野菜でも、しなびていたらエネルギーはもらえない。だから自発的に物を見て、選びとる力が大切です。それが自立して生きるということではないかなと。

女優は役を通して生き方がにじみ出る職業だから、1日1日を大切に生きて精進していきたい。そうすればいつか「ありがとう」のたった一言に、人間の厚みが感じられる女優になれるんじゃないかって思うんです。

Profile

つるた まゆ
神奈川県生まれ。成城大学文芸学部卒業。88年テレビドラマ『あぶない少年Ⅱ』で女優デビュー。数々の映画やテレビドラマに出演し、96年『きけ、わだつみの声』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。旅番組やドキュメンタリー番組にも数多く出演し、中央アジアやアフリカ、南米といった海外の辺境から日本国内まで、これまでに訪れた国は40にも上る。4月8日スタートのドラマ『犯罪症候群~Season1~ 』(フジテレビ系)に出演しているほか、映画『ゆらり』、『じんじん~其の二~』が今年公開を控えている。著書『ニッポン西遊記』第2弾(幻冬舎)が5月発売予定。

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