輝くライフスタイルを応援する

No.131 Spring.2018

今日とは違う景色を見るため
勇気をもって進んでいきたい

女優

黒木 瞳さん

宝塚歌劇団の娘役として活躍し、
映画『失楽園』で一躍、トップ女優の座に上り詰めた黒木瞳さん。
近年は監督デビューも飾り、活躍の場を広げています。
昨年暮れには人生2作目となる写真集『Timeless』を発表し、主演映画の公開や舞台公演も目白押し。
50代を迎えてますます輝く黒木瞳さんに、今のご自身が向き合う仕事への思いや、健康の秘訣について伺いました。

取材・文/吉田燿子 撮影/齋藤久夫
スタイリスト/後藤仁子 ヘアメイク/在間亜希子(MARVEE)


高校卒業後、宝塚音楽学校に進学し、宝塚歌劇団に入団。
娘役としては史上最速となる入団2年目に、大地真央の相手役として月組トップ娘役に就任した。
1985年に退団し、芸能界に転進。1997年公開の主演映画『失楽園』では、不倫の恋に身を焦がす人妻役を熱演した。
映画は社会現象といえるほどの一大ブームを巻き起こし、黒木さんはトップ女優の座を不動のものとする。
近年は女優として活躍するかたわら、2016年公開映画『嫌な女』で監督デビュー。
ネスレシアターのショートフィルム『わかれうた』でもメガホンをとり、女優兼監督として新たな境地を開いている。

「今までとは違う景色が見たい」と監督業に初挑戦

『嫌な女』を映画化することになったのは、私が原作に惚れ込んだのがきっかけです。私が監督を務めれば作品として成立するという状況だったので、なんとしても映画化したいと思い、監督をお引き受けすることになりました。
とはいえ、最初にお話をいただいた時は、「まさか自分が監督なんて」と、さすがに尻込みしましたね。女優以外のことが自分にできるとは思えなかったので、ずいぶん悩みました。そんな時、ある方に言われたんです―「今日とは違う明日の景色が見たかったら、一歩前に出てみなさい」と。

女優が監督業に手を染めたら、いろいろ言われるのは目に見えている。それでも、今までとは違う景色を見ることで、自分の気持ちにもきっと変化が訪れるだろうと。それなら、今まで全く経験のないことをやってみてもいいのではないかと思い、私はようやく重い腰を上げたのです。

監督の仕事は、女優の仕事とはいろいろ勝手が違います。実際に自分で監督をやってみて、制作スタッフの苦労が身に沁みました。皆さんが俳優たちを迎えるために、どれほど入念に準備を重ね、どんなに熱い思いで作品を作っていらっしゃるのか。そのことを肌で感じたので、皆さんには感謝以外の何ものもありません。

映画制作の現場は、自分ひとりでは何もできない世界。エンタテインメントとは大勢の人が協力して作り上げる総合芸術なのだと、あらためて実感させられましたね。
もうひとつ、監督をやってみて感じたことがあります。それは、監督にとっては、役の大小にかかわらず、登場人物のすべてがものすごく愛おしいのだということです。監督というのは、これほどの愛を持って作品を作っているのか、と。頭ではわかっているつもりでも、実際にやってみないと、その愛の熱量はわからない。今までとは違った目で映画を見ることができるようになったという意味でも、監督をやってみて本当によかったと思います。


昨年12月、写真作品集『Timeless』を出版。
一流クリエイターが結集して撮り下ろしたこの写真集は、
1997年に発売された『黒木瞳~17か月のDesignedWoman』に続く、生涯で2冊目の写真集だ。

20年前に出した最初の写真集は、「等身大の黒木瞳」をテーマに、17カ月という長いスパンで日常を切り取ったもの。私はリチャード・アヴェドンの写真が大好きで、本当は1冊目も、そういうコンセプトで作りたかったのです。ただ、この時は「日常」がテーマだったので、そこまで芸術性の高い作品にすることはできなかった。以来、「いつかはアヴェドンのような写真集を作りたい」と、ずっと思い続けてきたんです。
今回、2冊目の写真集を出すにあたっては、私が女優としてこの世に存在していた証として、「女優・黒木瞳」を閉じ込めたような写真集を作りたいと考えました。幸い、クリエイターの皆さんがプロフェッショナルとして動いてくださったので、私は被写体に徹することができた。この年齢になったからこそ、自分が作りたかった写真集に近づくことができたと感じています。

人生経験を積むと、感情の幅が広がり、ものの考え方や価値観が豊かに成熟していきます。年齢を重ねていけば人生経験という財産は増えていくけれども、考え方は逆にシンプルになっていくと思うんです。50代ともなると、人生のジャッジはシンプルにならざるをえないし、シンプルだからこそ時間を大切に生きることができる。この作品集では、そんな時間の経過を表現できたのではないか、と思っています。

※ ニューヨーク生まれの写真家。ファッションやアートの分野で優れた作品を撮った

人生経験という財産が増えるほど生き方はシンプルになる

自分を過信せず
年齢を受け入れること

女優として多忙な日々を過ごす中、体調管理には人一倍気を遣っている、という黒木さん。50代になった今も輝きを失わず、美と健康を保ち続ける極意とは。

健康の秘訣は、「自分を過信せず、年齢を受け入れること」。人間ってどうしても、「前はこんなに速く走れた」「私はもっとできる」と思ってしまいがちですよね。でも、私はそう思わないんです。40代なら40代、50代なら50代なりに、体の変化を受け入れることが大事だと思います。
それから、「完璧主義にならない」ことも大切です。生活のバランスに気を付けながら、手を抜くときは抜く。体が悲鳴を上げる前に、SOSをキャッチして対処するよう心掛けています。
あとは「早寝早起き」ですね。撮影がない日は夜9時ぐらいに寝て、朝は5時か6時には起きています。昨日は深夜2時に目が覚めて、キッチンでお雑煮を作り始めたら、夫が起きてきて「一体、何を考えてるの?」と言われてしまって(笑)。
私にとっては、朝の時間がゴールデンタイム。一番頭が働く時間なので、撮影がない日は朝早く起きてメールの返信をしたり、やるべきことを整理したり、朝食やお弁当を作ったりしています。

美容法として続けているのは、高麗人参茶を飲むことと、最近はアロエベラのジュースも飲んでいます。それから、ドカ食いはしませんね。一度に量が食べられないので、いつもお弁当を持参して、お腹が空いた時に食べるようにしています。
スポーツはあまりやらないのですが、タップダンスは続けています。私は〝ふくらはぎフェチ〟なので、ふくらはぎにしっかり筋肉が付いた足が好きなんです。タップダンスというと、「足を床に打ち付けるから、余計な筋肉が付くのでは」と心配する人がいますが、「ヒールアップ」効果で足が細くなります。それに、「人間は足から弱る」といわれますね。タップをやると腸腰筋が鍛えられるんです。いくつになっても元気に歩けるって、とても大切なことですね。



今年5月15日から日生劇場で『シラノ・ド・ベルジュラック』のロクサーヌ役を演じる黒木さん。
6月9日からは、内館牧子のベストセラー小説が原作の主演映画『終わった人』が、東映にて全国公開も予定されている。

『シラノ・ド・ベルジュラック』は、日生劇場で『ハムレット』を演じてから久し振りの古典演劇です。初めてシェイクスピア劇に挑戦した時、「どんな時も、立て板に水で、台詞が滑らかに出てくるように」と教わりました。翻訳劇でも台詞が流れるように美しいので、演じるのが楽しみですね。
映画『終わった人』は、大人が楽しめる、大人のための作品です。主人公を演じる舘ひろしさんの演技が本当に素晴らしいんです。観る方はご自分に重ねて、感じるところが多いかもしれない。その意味でも、男性必見の映画です。

これからは義務で仕事をするのではなく、仕事をエンジョイできるようになりたいですね。何かを創り上げる仕事なので、「生みの苦しみ」は常にありますが、それすらも楽しめるようになれたらいいな、と。「やらなきゃいけないからやる」のではなく、「やりたいからやる」のが理想。新しいことに挑戦して自分の世界を広げていければ、と思っています。

Profile

くろき ひとみ
福岡県八女市生まれ。1981年宝塚歌劇団に入団し、娘役のトップスターとして活躍。1985年退団し、翌年NHK『都の嵐』、映画『化身』で女優デビュー。1998年、映画『失楽園』で第21回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。2000年、映画『破線のマリス』で第10回日本映画批評家大賞。2016年公開の映画『嫌な女』で監督デビューも果たした。写真集やエッセイ集、詩集、翻訳絵本なども数多く出版し、幅広い分野で活躍中。

『Timeless』 (幻冬舎刊)
黒木瞳さんが20年ぶりに発表した生涯2冊目の写真作品集。コンセプトからメイク、スタイリングまで徹底的にこだわり、「女優・黒木瞳」を表現したアーティスティックな1冊。