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No.136 Summer.2019

日本女性の活躍を象徴する
トップリーグを創りたい

元サッカー日本女子代表監督

佐々木 則夫さん

「なでしこジャパン」の指揮官として、2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会で優勝。
日本中に“なでしこ旋風”を巻き起こしたのが、元サッカー日本女子代表監督の佐々木則夫さんだ。
名将のどのような指導が、なでしこを世界王者に導いたのか。
そして、日本女性を輝かせたマネジメント力の秘訣とは。
日本サッカー協会理事・兼、男女共同参画会議議員として女性活躍を牽引する佐々木さんに話を伺った。

取材・文/吉田燿子 撮影/川田雅宏


佐々木則夫さんがサッカーに出会ったのは小3の時。野球少年の佐々木さんがサッカーの虜になったのは、転校がきっかけだった。

山形から都内に転校し、1年後に埼玉県の学校に転校しました。転校先ではコミュニケーションに苦労しましたが、足が速かったので、野球よりサッカーをやる方が級友の評価が高かった。それが、サッカーを始めた理由です。
サッカーの魅力は「ボール1つあれば皆で楽しめる」こと。選手が自由に考え、ピッチで状況判断しながら創意工夫できる点にも惹かれました。「サッカーは世界のスポーツの王様」という感覚があり、すごく楽しかったですね。


大宮アルディージャの前身であるNTT関東サッカー部で活躍し、33歳で現役引退。2006年日本女子代表コーチに招かれ、翌年末、日本女子代表監督に就任した。

当時、女子代表選手たちは、自分のプレーにあまり自信を持っていなかった。「あれで良かったのでしょうか」と、第三者の評価をすごく気にするわけです。サッカーは個で判断して状況に対応するスポーツですから、細かいミスを反省しすぎず、どんどん実践していく必要がある。当時はプレーのレベルも低かったので、指導者主導でサッカーのベースを鍛え、チーム戦術を構築する必要がありました。
一方で、彼女たちの目配りや気配りの繊細さには、素晴らしいものがありました。例えば、僕がキャンプでひどい肉離れを起こした時は、選手たちが本当に心配して、手厚くサポートしてくれたんです。それは試合においても同様で、誰かがボールを奪おうとしてスライディングに失敗すると、間髪入れず他のメンバーがスライディングに行く。仲間のミスを献身的かつハイパワーでカバーする力には、目を見張るものがありました。こうした女子特有の繊細さや仲間への思いやりを、チーム戦術に活かせるのではないか。強豪国のようなパワフルなロングパスやロングシュートはできないけれど、足技を磨いてチーム戦術を指導し、持ち前の目配りや気配りを活かせば、可能性はあると思ったんです。

得意のダジャレで磨いた
シンクロコーチング

こうして辿り着いたのが、「なでしこジャパン」の代名詞となったパスサッカーだ。11年のFIFA女子ワールドカップドイツ大会では、男女を通じて日本サッカー史上初の金メダルを獲得。〝なでしこ旋風〟は日本中を席巻した。

ドイツでワールドカップが開催された11年春、東日本大震災が起きました。元々、第三者への思いが人一倍強い子たちですから、「自分たちのプレーが被災地復興の一助になれば」という思いは強かった。自分たちが戦う姿を皆さんに見ていただくことが、日本代表としての仕事︱︱そんな思いで一戦一戦を戦い、あれよあれよという間に決勝進出、そして優勝を果たしたのです。選手たちが国民の皆さんの応援を肌で感じ、日本代表としての自覚を強く持てたことが、優勝を手繰り寄せるパワーとなったのかもしれません。

なでしこジャパンの優勝で、佐々木さんは一躍、時の人となった。なかでも注目されたのが、「女性の力を最大限に引き出すマネジメント力」である。

女性のマネジメントで重要なのは、相手にとって「わかりやすい」存在であるということです。僕が女子代表監督に就任した時、妻と娘にこう言われたんです。「あなたは性格がわかりやすいし、裏表がないから、女子の監督には向いているかもしれないわね」と。

実際、そうでしたね。その場の機嫌で言うことが変わるような監督の下では、選手たちはのびのびと自分を出すことができない。逆に「ノリさんはこういうことはしても大丈夫。でも、こういうことをすると叱られる」というように、監督がわかりやすいと、選手は楽なわけです。女性をマネジメントする時は、鎧をつけず、心を開いて接することが大事。まぁ、僕に頼りないところがあったので、選手の方で「なんとかしてやろう」と思ったのかもしれませんが(笑)

左から、2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会金メダル、フェアプレー賞金メダル、2015年FIFA女子ワールドカップカナダ大会銀メダル

左から、2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会金メダル、フェアプレー賞金メダル、2015年FIFA女子ワールドカップカナダ大会銀メダル

綾小路きみまろのファンとして知られる佐々木さん。なでしこ監督時代、ダジャレを多用して選手を和ませたことはつとに有名だ。

サッカーのコーチングとお笑いには共通点があります。それは「間の大切さ」です。サッカーでは選手のプレーを止めず、流れの中で気づきを与えることがとても重要です。「今、左サイドの奴が見えてたか」 「あ、見てなかった。左サイドにスペースがあったのか」―このように、流れの中でタイミングよく言葉をかける手法を「シンクロコーチング」といいます。でも、適切なタイミングで瞬時に言葉が出てこないと、シンクロコーチングは成り立たない。このタイミングを学ぶには、ダジャレがすごく効果的なんです。
それに、笑いには選手の緊張をほぐす効果もあります。僕もキャンプ中は、笑いのあるフランクな雰囲気づくりを心掛け、「おはよう、よく眠れたか」と事あるごとに選手に声をかけていました。それだけで、選手たちもストレスから解放され、本来の力を発揮して短期間に成長することができるのです。

女性のマネジメントで重要なのは「わかりやすい」存在であること

朝、散歩すれば
どんな難題も解決できる

それから、海外の大会の時は、いつも朝食前に1時間ほど散歩していました。朝、散歩すると頭の中が整理されて、いろいろなアイデアが湧いてくるんです。だから、試合の出場メンバーなどは、あえて当日まで決めないようにしていました。どんな難題も「明日散歩すれば絶対解決できる」と思うから、前の晩はぐっすり眠れる。海外の大会ともなると、朝の景色が神秘的ですごくいいんですよ。散歩しながらあれこれ考えすぎて、道に迷ってしまったこともあります(笑)

私の活力チャージ法

18年3月、日本サッカー協会理事に就任。日本の女子サッカーの現状と課題、その未来像について、佐々木さんはこう語る。

女子サッカーにはU-17、U-20、トップなどナショナルチームによる世界大会がありますが、3つのレベルで優勝経験があるのは日本だけです。サッカーは他の球技と違い、パワーはなくとも目配り、気配りとセンスで勝つことができる。

とはいえ、日本の女子サッカーが転機を迎えているのも事実です。僕が代表監督の頃は、海外の代表チームは技術力もそれほどではなく、陣形が間延びしているので、日本代表がコンパクトに囲めばパスが通りやすかった。なでしこはパスサッカーを駆使することで、女子サッカーの世界に革命を起こしたわけです。ところが、なでしこの優勝は、技術や守備、コンパクトにすることの重要性を世界に知らしめてしまった。スピードとパワーに技術がミックスされれば、日本代表がそれを打ち破るのは容易ではありません。それを打開するためには、ユース年代から技術を磨き、日本のリーグの質を向上させる必要がある。選手の〝個〟をもっと活かし、チームの戦術をより一層高めることで、オリンピックやワールドカップのファイナルが近づいてくると思います。

今後は、日本の少女たちの目標となるような、女子サッカーのトップリーグを創りたい。それも、日本女性の社会的地位向上の象徴となるようなリーグにしたいと考えています。

それから―僕が付けているこのバッチのことですが、生涯乳がんを患う日本人女性は11人に1人の割合でいるそうです。サッカーも11人ですから、他人ごとではありません。世界的な乳がん啓発運動であるピンクリボンに、僕もぜひ協力していきたいと思っています。

Profile

ささき のりお
1958年山形県生まれ。帝京高校、明治大学を経て日本電信電話公社に入社。電電関東/ NTT関東サッカー部(大宮アルディージャの前身)でプレーする。2006年サッカー日本女子代表コーチ・U-17日本女子代表監督に、07年末に日本女子代表監督に就任。08年北京五輪4位、11年FIFA女子ワールドカップドイツ大会で優勝。16年に代表監督を辞し、十文字学園女子大学副学長、大宮アルディージャ トータルアドバイザーに就任。日本サッカー協会理事も務める。

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